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そうし

荘子

岡本 かの子

「三田文学」1935(昭和10)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,362 字 · 25 页

青空文庫

紀元前三世紀のころ、支那では史家が戦国時代と名づけて居る時代のある年の秋、魏の都の郊外櫟社の附近に一人の壮年=荘子が、木の葉を敷いて休んでいた。

彼はがっちりした体に大ぶ古くなった袍を着て、樺の皮の冠を無雑作に冠って居た。

顔は鉛色を帯びて艶が無く、切れの鋭い眼には思索に疲れたものに有勝ちなうるんだ瞳をして居た。だが、顔色に不似合な赤い唇と、ちぢれて濃い髪の毛とは彼が感情家らしいことを現わして居る。そうかと思えば強い高い鼻や岩のような額は意志的のもののようにも見える。全体からいっていろいろなものが錯綜し相剋し合っている顔だ。

荘子の腰を下している黍畑の縁の土坡の前は魏の都の大梁から、韓の都の新鄭を通り周の洛邑に通ずる街道筋に当っていた。日ざしも西に傾きかけたので、車馬、行人の足並みも忙しくなって来たが、土坡の縁や街道を越した向側の社のまわりにはまだ旅人の休んで居るものもあり、それに土地の里民も交ってがやがや話声が聞えていた。里民たちは旅人たちから諸国のニュースを聴かせて貰うのを楽しみによくここに集って来た。彼等は世相に対する不安と興味とに思わず興奮の叫び声を挙げた。