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そうし
荘子
岡本 かの子
「三田文学」1935(昭和10)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,362 字 · 25 页
それが荘子が途中「道」に迷いを生じ始め漆園の官吏も辞め華々しかった学界の生活からも退いて貧しい栄えない生活にはいってからも、昔の豪奢な育ちを忘れ果てた様に、何一つの不平もいうところなく彼に従って暮して居る。きりょうも痩せては居るが美しかった。荘子もこの妻を愛して居る。だが、荘子はこの妻の貞淑にもまた月並な飽足りなさを感じるのだった。つまり貞淑らしい貞淑は在来の「道らしい道」に飽きた荘子にとって無上の珍重すべきものではなかった。悧巧な田氏は夫の自分に対するその心理さえ薄々知って居てあえて不平も見せなかった。
小童を手伝わして食卓を撤したあと、袖をかき合せて夜風の竹の騒ぐ音を身にしませ乍ら、田氏はなるたけ夫の感情を刺戟しないようさりげなく云った。
「ねえ、あなた。あなたもたまには洛邑にでも出てお気晴らしをなさっていらっしゃいませ、こんな田舎で長いこと毎日独で考え込んでばかり居らっしゃるのはお体の為によくありませんでしょう」
田氏はまた燭の火に一層近づいて髪の銀簪がすこし揺れるくらいの調子でつけ加えた。
「ねえ、洛邑に沙汰して置いて遜さんが次の商用で旅に出ないうちに一度是非行っていらっしゃいませ。