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そうし

荘子

岡本 かの子

「三田文学」1935(昭和10)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,362 字 · 25 页

青空文庫

を尋ねるものの道途を却って妨げる=だが、この考はまだ何となく彼の頭のなかに据りが悪いところもあった。人々は寸のものを尺に見せても世の中に出たがって居る。彼もつい先頃までその競裡に在ったのだ。この習性はそう急に抜け切れるものでは無い。彼はまたしても櫟の大木を見上げて溜息をついた。

この時、大梁の方角から旅車の一つが轍を鳴らして来たが荘子の前へ来ると急に止まって御者台の傍から一人の佝僂が飛降りた。近付いて来ると

「荘先生ではありませんか、矢張り荘先生だった」

と云った。これは荘子のパトロンで諸国を往来して居る金持商人の支離遜だった。

支離遜は蜘蛛のように土坡へ匍い上り荘子と並んで腰を下すと言葉をほとばしらせた。

「今お宅へ伺いましたらこちらにお居でだと伺って直ぐ参りました。久し振りですな、先生なにからお話して宜いやら、それよりか先生、何故あなたはお勤めも学問の方もおよしになってこちらへ御隠退なさいましたか、お知らせも下さらないで」

荘子は久し振りで支離遜に逢って嬉しくもあったが直ぐそれを聞かれるのはすこしうるさかった。で、彼はごく手短かに引退の理由を話した。