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そうし

荘子

岡本 かの子

「三田文学」1935(昭和10)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,362 字 · 25 页

青空文庫

人間がその様に生きられるならば哲学とか思想とかいうものも敢て必要としないだろう。時々思い出して切なくなる荘子にそう思わせる麗姫はもと秦の辺防を司る将軍の一人娘であった。戦国の世によくある慣いで父将軍はちょっとした落度をたてに政敵から讒言を構えられ秦王の誅を受けた。母と残された麗姫はこのときまだこどもであった。天の成せる麗質は蕾のままで外へ匂い透り行末希代の名花に咲き誇るだろうと人々に予感を与えている噂を秦王に聞かせるものがあった。で、間もなく母にも死に訣れた麗姫は引取られ后宮に入れて育てられた。いずれ王の第二の夫人にも取立てられる有力な寵姫になるだろうと思われているうち、この王が歿し麗姫は重臣達の謀らいで遠くの洛邑の都に遊び女として遣られた。当時洛邑の遊び女には妲妃、褒、西王母、というようなむかし有名な嬌婦や伝説中の仙女の名前を名乗っている評判のものもあった。客には士太夫始め百乗千乗の王侯さえ迎え堂々たる邸館に住み数十人の奴婢を貯え女貴族のようなくらしをしていた。この中に入った麗姫が努めずしてたちまちその三人を抜いて仕舞ったというのには、何か彼女に他と異なった技巧でも備って居たのかと云うに、却ってそれは反対であるとも云える。