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きくにんぎょう

菊人形

宮本 百合子

「大衆クラブ」1948(昭和23)年第9号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,991 字 · 16 页

青空文庫

はりぬきの岩に腰をかけ、フェルト靴の先を可愛く白レースと思われた服の裾からのぞかせ、水色カンレイシャで飾られた帽子のつばを傾けて、両手でもった一輪のバラの花を見ている母の写真。それは明治の幻燈のようになつかしく美しく素朴である。

けれどもロンドンでそれをうけとった三十七八の父からは、母が想像していたのとはまるで反対の手紙が来た。日英同盟していた小さい日本が、ロシアに勝ったということで、在留民の少いロンドンで父の受けた特別待遇は著しかったらしい。ノギ・トウゴーの名が建築家である若い父のまわりで鳴りひびいた。エドワード七世即位式の道すじに座席が与えられた。そういう父から、母へ来たのはインド洋をこしての叱責だった。あのお前が洋服だと思っている服は西洋の女のネマキであること。はいているクツは人目に見せるべきものでない室内靴であること。ああいう写真は二度とよこしてくれるな。恥しい、ということであった。

六つの娘は、母があんなに立派できれいだったのに、もう決して二度とその洋服を着ようとしないのを残念に思った。

「ああちゃん、どうして洋服きないの?」

箪笥の一番下のひき出しに、三井呉服店とかいたボール箱に入ったままあるのを見て、娘がきいた。