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きくにんぎょう
菊人形
宮本 百合子
「大衆クラブ」1948(昭和23)年第9号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,991 字 · 16 页
田端の高台からずうっとおりて来て、うちのある本郷の高台へのぼるまでの間は、田圃だった。その田圃の、田端よりの方に一筋の小川が流れていた。関東の田圃を流れる小川らしく、流れのふちには幾株かの榛の木が生えていた。二間ばかりもあるかと思われるひろさで流れている水は澄んでいて流れの底に、流れにそってなびいている青い水草が生えているのや、白い瀬戸ものの破片が沈んでいるのや、瀬戸ひき鍋の底のぬけたのが半分泥に埋まっているのなどが岸のところから見えていた。大根のとれる季節になると、その川のあっちこっちで積あげた大根を洗っていた。川ふちの榛の木と木の間に繩がはってあって、何かの葉っぱが干されていたこともある。わたしたち三人の子供たちは、その川の名を知らなかった。
田圃のなかへ来ると、名も知れない一筋の流れとなるその小川をたどって、くねくねと細い道を遠く町の中へ入って行くと、工場のようなところへ出て、それから急に人通りのかなりある狭い通りへ出た。そこには古い石の橋がかかっていた。そして石橋の柱に藍染川とかかれていた。その橋から先はもう小川について行くことができなかった。