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きくちよしょう

菊千代抄

山本 周五郎

「週刊朝日春季増刊」朝日新聞社、1950(昭和25)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 36,178 字 · 72 页

青空文庫

――自分は女であった。

――男ではなかった。

――自分は女であった。

同じことを繰り返しながら、夜具の中で輾転と身もだえをし、とつぜん起きて泣いた。二三日は食事もせず、水ばかり飲んでいた。気が昂ぶってくると自分で自分を制することができない。物を毀したり、寝衣をひき裂いたり、そうして父や母やまわりの者みんなに対して呪いの叫びをあげた。

「みんな御家のためでございますから、古くからのいいつたえで、そうしなければならなかったのでございますから」

松尾はいっしょに泣きながら、そして不浄の始末に絶えず気をくばりながら、夜も殆んど眠らずに付いていた。

「決してそんなに御心配あそばすことはございません。お世継ぎさえ御出生になれば、それですぐにお姫さまにおなりあそばすのですもの、お嘆きあそばすことは少しもございませんですよ」

「聞きたくない、うるさい、黙って呉れ」

菊千代はこう叫んで、松尾に物を投げつけたことさえあった。自分の忌わしく呪わしい立場は誰にもわかって貰えない、松尾にも理解できないようだ。それが救いがたいほど菊千代を孤独感につきおとし、絶望的にさせた。

――自分は女であるのに、女として生れてきたのに、……それを男と偽ってそだてられた、今でも自分は男の気持でいる、だが、……からだは女として成長しているのだ、いったい