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きくちよしょう

菊千代抄

山本 周五郎

「週刊朝日春季増刊」朝日新聞社、1950(昭和25)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 36,178 字 · 72 页

青空文庫

月代にしても、菊千代のは剃りあとの青さが違う、なめらかに白くてぶよぶよした感じである。眉毛も細く、口髭も生えない、どんなに荒々しくしても手爪先はすんなりと美しくなるばかりだった。そして声がいつまでもかれらのように太くならず、叫んだりするときんきん甲高に響いた。まだ固いしこりのある乳房は手で押しても痛む、それを菊千代は晒し木綿できりきりと巻き緊めた。剃刀を当てれば濃くなるというので、口のまわりを毎日のように剃らせた。弓、薙刀、乗馬のほかにまた剣術を始め、なお奥庭の菜園で土いじりもした。

こうしてからだを酷使し、食事もできるだけ粗末な物をできる限り少量摂った。しかしそういう努力を嘲弄するかのように、からだ自体は女としての発達を少しもやめなかった。

古くからの学友をやめさせ、まったく菊千代を知らない少年を三人、上屋敷から貰った。河井数馬、末次猪之助、佐野守衛、みな同年の十四歳であった。……このあいだに学問や武芸の師も交代させ、新たに来た師にもほとんど教授を受けなかった。三人の少年たちとだけ弓や薙刀の稽古をしたり、馬に乗ったりするほか、しだいに部屋へこもるようになった。