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きくちよしょう

菊千代抄

山本 周五郎

「週刊朝日春季増刊」朝日新聞社、1950(昭和25)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 36,178 字 · 72 页

青空文庫

侍や下僕たちにそういいつけて、男のほうは見ずにそこを去った。

病気をいたわってやれといったとき、菊千代はふと竹次夫妻にも援助を与えようと思いついた。そして名代名主の数右衛門を呼んで、援助はどのようにしたらいいかを相談した。……数右衛門はそれには反対であった、かれらが本当に百姓になるつもりなら、やはり孫の代まで辛抱しなければいけない、ここで脇から助けてやれば、当座は生活が楽になるであろう、しかし援助が切れたときは元の杢阿弥で、そうした例は幾らもある。そんなふうに主張した。

「それはそうでもあろうが、辛抱してゆけるだけの心配はしてやってもよくはないか」

菊千代はさからわずに、竹次が病人であることを話し、とにかく仇にならない方法でかれらを援助するようにと云った。

それから約一年あまり。菊千代はおちついた静かな日を送った。

竹次には肥えた田を五段歩と、炭を焼くための山が与えられた。土地が谷峡なので、良い田地はあまり多くは無い、その五段歩は数右衛門の持ち地で、竹次に作らせるにはかなり無理をしたようであった。

源太の物置にいる男も、病気はさして悪くないとみえ、ときに歩きまわっている姿をみかけるし、小屋の前を通りかかるとよく薪を割っていたりした。