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らくらいのあと

落雷のあと

豊島 与志雄

――近代説話――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,072 字 · 14 页

青空文庫

遠くに稲妻と雷鳴とがあるだけで、夜気は静まり返り、狭い庭の隅には、秋を思わせるような虫の声がしていました。母と妹はまた食物のことを話しだしました。母はもうだいぶ弱っていました。白髪染めをやめたせいか、頭髪に白いのが目立ち、腰が曲ってきたせいか、背丈が縮んだようでした。頬のたるんでる色白の顔が、却っていたいたしく見えました。以前は何事も手早く取り片付けていたのに、この頃では、長い間かかって抽出の中などをかきまわしてることがありました。食事の後も暫くは坐りこんだままで、立つのが大儀そうでした。妹も母に似た顔立で、色が白く頬がふっくらしていて、そして背が低く小柄でした。食事の後も、母と調子を合して容易に立とうとしませんでした。

風が吹きだして、雨が来そうな気配に母と妹は戸外へ注意を向けて、暫し黙りこみました。その二人とも、へんに淋しく頼りなさそうでした。良人を亡くしてから貧しい生活を続けてきた五十歳過ぎの母、いずれはどこかへ縁づかなければならない二十四歳の妹、二人とも、気力も体力も弱そうで、そして家庭には、戦死した弟の占めていた場所が新たな空虚を拵えていました。