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あし
葦
山本 周五郎
「週刊朝日」朝日新聞社、 1947(昭和22)年6月22日号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,406 字 · 25 页
と云った、市蔵はなにも云わずに受取ってふところに入れた。
「おれはふしぎに思う」将監台から伴れだって去りながら、又五郎は述懐するようにこう云った。「人間を慰め、ちからづけ、世の中を美しく楽しくしてくれるものは、女性と、酒だ、どちらも人間生活を豊かに、生き甲斐あるものにするためには欠かすことができない、それにもかかわらず、その二つのものが時に人間を堕落させ破滅させるのはなぜだろう」
市蔵はなにも云わなかった、又五郎もあとは続けなかった。
その年の秋に彼は結婚した。相手は槍刀奉行のむすめで、いちど他へ嫁して不縁になった女だった。彼にとって、結婚はすでに事務の一つだった。家には妻がなければならない、家政を任せ子を生ませるために、情熱や理想や夢は遠く去っていた。祝言のとき、彼は精しい計算書を作って、費用はすべてを妻の実家と折半にした、義父は渋い顔をして割前を払ったが、婿がそれほど『しまつ屋』になったことを誇り、それを吹聴した。
五年のあいだに子供が三人生まれた、みんな男だった。良人から愛されていないことを知っていた妻は、初めて主婦の位置と権利を握り、そして肥って、子供たちを溺愛した。