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あし

葦

山本 周五郎

「週刊朝日」朝日新聞社、 1947(昭和22)年6月22日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,406 字 · 25 页

青空文庫

六

そしてそこで三年勤めてから、こんどは用人格にあげられ、役料百石を加えられて江戸詰を命ぜられた。……これも異数の出頭である、そのとき彼は髭を立てようと決心した。

六

風が渡ると葦たちは波をうって光りながら揺れそよいだ。

かつては淀みの岸に沿って、疎らに弱よわしい茎を伸ばしていたのが、拡げるだけ根を拡げ、すでに淀みの半ば以上を掩いつくしている。またそこには幅六尺ばかりの水路が縦横に切拓いており、秋から冬にかけて葦刈りや鴨猟の舟が往来した。……端から絶えずはらはらと崩れていた岸は、そのためにずっと後退し、なぞえに低くなった。巨きな椎の樹は一本だけ残して伐られ、篠竹や灌木の茂みは畑になっている、したがって今はみぎわも明るく、陰鬱な眺はみられなくなった。

夏にはまれな淋雨があがって、空いっぱい眼にしみるほど鮮かな碧色に晴れた朝、ひとりの老人が釣竿と魚籠をさげてこのみぎわに現われた、菅野又五郎であった。生麻の帷子の着ながしで、脇差だけ差した腰に、高価な莨入が揺れていた。見たところ彼はすべてに満足した隠居というふうだ。過去に良心の咎めもなく、現実に不安もない、道徳も秩序も彼を護ってくれるし、世間はその功績と権威を認め、尊敬をはらっている。