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あし
葦
山本 周五郎
「週刊朝日」朝日新聞社、 1947(昭和22)年6月22日号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,406 字 · 25 页
二
葦はさやさやと、いつまでも飽きずに、なにごとか囁きあっていた。
二
将監台の上も霧だっていた。丘の中どころに、樹立に囲まれた広い草地がある。草地の端に若い武士がひとり立っている、顎骨のはっきりした、眉の濃い、眼の明るい、意志の強そうな顔である。彼は千神市蔵といって、その藩の勘定奉行所に勤めている、食禄は三百石、位置は物頭格で年は二十七歳だった。……彼はもう四半刻もそこで待っていた。刻限は過ぎている、帰ってもよいのだが、その決心がつかない、もうしばらくと思う。ここでは霧がほとんど動かない、頭上はすっかり明けて、橙色に染った雲が鮮かに見える。市蔵はふと振返った、眉があがった、坂道を登って来る忙しげな足音が聞えたのである。市蔵は刀のさげ緒をとって襷をかけ、袴の股立を絞った。そのとき草地の東端へ、樹立の中からひとりの若侍が走せつけて来た。彼は同じ藩のさむらいで菅野又五郎という、蒼白く痩せて、とげとげした、絶望的な顔つきで、ひどく血ばしった眼をしている。唇は白く乾き、走って来たからだろう、苦しそうに喘いでいた。
「刻限に遅れた、すまない」又五郎はこう云いながら、はいていた草履をぬぎ、むぞうさに刀を抜いた。