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あし
葦
山本 周五郎
「週刊朝日」朝日新聞社、 1947(昭和22)年6月22日号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,406 字 · 25 页
三
その城下では『お小屋』といわれて、ごく軽い身分の侍たちの住む区域だった。部屋の数は三つしかない。十坪の庭まわりに板塀があり、屋根は杉皮で葺いてある。建物は古く、風雨に曝されてしらちゃけ、はしゃいで、木理が彫ったように浮き出ている。侍の住居だということを示すだけのように、下僕の住む小屋が別にあるが、これはひと間ぎりで床も低く、商家などなら薪小屋にも使い兼ねるような粗末なものだ。……食事のしたくをして、とぼんと莨を喫っていた老下僕の清兵衛は、主人の帰って来たけはいを聞きつけ、慌てて漂っている煙を手で掻き消しながら立った。又五郎は刀を右手にさげ、喪心したように部屋へはいって来た。
「飯はいらない」彼は下僕からそむきながら膳部の前に坐った。「酒があったら欲しい」
「みてまいりましょう」
清兵衛はもう曲りかけた腰を伸ばしながら厨へ出ていった。又五郎は仰反に身を倒した。
三
夜半すぎから眠らずに駈けまわった、その疲れと気力の消耗のためだろう、冷のまま湯呑茶碗で三杯ばかり呷ると、頭がくらくらして飲めなくなった。彼は立って、隣りの六帖へはいった。調度らしい物のなにもない、がらんとした部屋の中に、そらぞらしいほど明るく爽やかな朝の日光がさしこんでいた。