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たでくうむし
蓼喰う虫
谷崎 潤一郎
「大阪毎日新聞 夕刊」1928(昭和3)年12月3日~1929(昭和4)6月17日<br>「東京日日新聞 夕刊」1928(昭和3)年12月3日~1929(昭和4)6月18日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 110,066 字 · 216 页
老人の好みで、風通だとか、一楽だとか、ごりごりした鎖のように重い縮緬の小紋だとか、もう今の世では流行らなくなってしまったものを五条あたりの古着屋だの北野神社の朝市などから捜して来ては、その埃くさいぼろのようなのをいやいやながら着せられて、地味に地味にと作っているので、いつも二十六七に見えるのだけれど、―――そして老人との釣り合い上、聞かれればそのくらいに答えるように云いふくめられているらしいけれど、―――鏡を支えた左の手の、指紋がぎらぎら浮いている桜色の指先のつやつやしさは、あながち髪の油のせいばかりではなかろう。要は彼女のこう云う姿を見せられるのは始めてであるが、薄着の下にほぼ在りどころが窺われる肩や臀のむっちりとした肉置きは、この上品な京生れの女には気の毒なくらい若さに張り切って、二十二三―――と云う歳頃をはっきり語っているのである。
「それから『宿屋の段』のあとに『道行の段』がありますね。―――」
「ふん、ふん」
「朝顔日記の道行きと云うのは初耳ですが、しまいに深雪の思いがかなって、駒沢と旅でもするんですか」
「いや、そうじゃない、わたしはこりゃあ見たことがある。