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たでくうむし

蓼喰う虫

谷崎 潤一郎

「大阪毎日新聞 夕刊」1928(昭和3)年12月3日~1929(昭和4)6月17日<br>「東京日日新聞 夕刊」1928(昭和3)年12月3日~1929(昭和4)6月18日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 110,066 字 · 216 页

青空文庫

そこへ持って来てたびたびの地震や火事で、焼けた跡に建てられるのは北海松や米材の附け木のように白っちゃけた家か、亜米利加の場末へ行ったような貧弱なビルディングである。たとえば鎌倉のような町が関西にあったとしたら、奈良ほどには行かないとしても、もっと落ち着いた、しっとりとした趣があろう。京都から西の国々の風土は自然の恵みを授かることが深く、天の災を受ける度が少いので、名もない町家や百姓家の瓦や土塀の色にまで、旅人の杖をとどめさせるに足る風情がある。殊に大都会よりも昔の城下町くらいな小さな都市がいい。大阪は勿論、京都でさえも四条の河原があんな風に変って行く世の中に、姫路、和歌山、堺、西宮、と云ったような町は、未だに封建時代の俤を濃く残している。………

「箱根や塩原がいいなんて云ったって、日本は島国の地震国なんだから、あんな景色は何処にでもある。大毎が新八景を募った時に『獅子岩』と云うのが日本じゅうに幾つあったか知れないそうだが、実際そんなものだろうよ。やっぱり旅をして面白いのは、上方から四国、中国、―――あの辺の町や港を歩くことだね」

とある四辻を鍵の手に曲っている佗びた荒壁の塀の屋根の、丸瓦の上からのぞいているうつぎの花を眺めたとき、要は老人のこの言葉をおもい出した。