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たでくうむし
蓼喰う虫
谷崎 潤一郎
「大阪毎日新聞 夕刊」1928(昭和3)年12月3日~1929(昭和4)6月17日<br>「東京日日新聞 夕刊」1928(昭和3)年12月3日~1929(昭和4)6月18日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 110,066 字 · 216 页
不釣合いに太い着物のが、すわっていながら膝の前へ垂れているのが不自然であるが、それは間もなく忘れられた。老人はこの人形をダークの操りに比較して、西洋のやり方は宙に吊っているのだから腰がきまらない、手足が動くことは動いても生きた人間のそれらしい弾力やねばりがなく、従って着物の下に筋肉が張り切っている感じがない。文楽の方のは、人形使いの手がそのまま人形の胴へ這入っているので、真に人間の筋肉が衣裳の中で生きて波打っているのである。これは日本の着物の様式を巧みに利用したもので、西洋でこのやり方を真似ようにも洋服の人形では応用の道がない。だから文楽のは独得であって、このくらいよく考えてあるものはないと云うのだが、そう云えばそうに違いない。立って激しく活動をする人形がへんに不恰好なのは、そうすると下半身が宙に浮くことを防ぎきれないで、いくらかダークの操りの弊に陥るからであろう。老人の議論を押し詰めて行くと、矢張据わっている時の方がねばりの感じが表わせる訳で、動くとしても肩でかすかな息をするとか、ほのかなしなを作るとか、ほんの僅かに動くしぐさが却って不気味なくらいにまで生き生きとしている。