轻读日语

轻松读懂日语经典作品

ja-reading.com

轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。

くらのにかい

蔵の二階

豊島 与志雄

「思索」1949(昭和24)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,351 字 · 27 页

青空文庫

そして彼女は終日、たいてい室に籠っている。家の用は殆んどしない。久子が配給物を取りに行ったり、其他の用たしに外出する時、留守番をするぐらいのもので、家事の手伝いはしない。ただ子供達の靴下の繕いだけは、一手に引き受けている。つまり、仕事の部面をはっきり区別づけているのだ。靴下の繕いがすむと、自分の古い着物を縫ったりほどいたり、ぼろ布をいじりまわしたりする。

最も時間をかけるのは、経文を写すことである。これは神聖な仕事で、先ず手を洗ってきて、紫檀の机の前に端坐し、ゆっくり墨をすりはじめる。それから写経用の唐紙の巻物をくり拡げる。写すのは、法華経の四要品とされている、方便、安楽、寿量、普門の四品である。そのむつかしい漢文を一字一字入念に写してゆく。いくら時間がかかっても構わない。間違いさえなければよいのである。この写経には、彼女は老眼鏡をかけ、白昼でも必ず電燈をつける。いや白昼に限るのであって、夜分は決して写経はしない。

人は写経をするようになると、或は写経を終えると、あとの寿命は長くない。そういう不吉なことを、久子はどこからか聞いてきた。桂介はそれを迷信だと笑ったが、カヨの生活状態を見ていると、いくらか気にかからないでもない。