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あざみ

薊

山本 周五郎

「小説新潮」新潮社、1959(昭和34)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,800 字 · 32 页

青空文庫

すると、そこにおうたがいた。夜具はなく、寝衣の上から薄い掻巻を掛けただけで、まろ寝をしていたのだろう。半身を起こした衿が少しひろがり、柔らかな胸のふくらみが覗いていた。暗くしてある灯の光りで、寝衣の華やいだ色と、白くて柔らかな、こんもりした胸のふくらみとが、銕太郎の眼をとらえた。彼は黙って、片手をおうたのほうへさしのべた。

「おひやですか」とおうたが云った。

銕太郎は首を振った、「おいで」

おうたはすり寄って来た。ほんの一瞬、その顔にべそをかくような表情があらわれたが、すり寄って来る動作はごく自然であり、それからあとはおどろくほど積極的だった。銕太郎はとまどいをし、圧倒された。妻のほかに女を知らない彼には、おうたのすることや、呼吸や、訴えや、求めなどが、すべて尋常でないことのように思われ、却って、彼の内部で燃えていたものが冷えてしまった。

「このお肌の匂い」おうたは彼の胸に顔をうずめながら喘いだ、「あたしこの匂いを嗅ぐだけで、いつも頭がくらくらしてしまいますの」

「おれの匂いはそんなにひどいか」

「好き、好き」とおうたはからみついた、「あなたがお立ちになると、いつもお寝衣を隠しておいて、このお肌の匂いがなくなるまで抱いて寝るんです、もうずっとまえから」