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あざみ

薊

山本 周五郎

「小説新潮」新潮社、1959(昭和34)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,800 字 · 32 页

青空文庫

この二つのことがずっと胸につかえていた。そして明くる年、殿に参覲のいとまが出て帰国する途中、再びおうたとそういうことになった。おれはあやまちを繰り返したくなかったので、浜松では宿直をするつもりだったが、殆んどもの狂おしいようなおうたの誘いに抗しきれず、夜半になって隠居所で逢った。

おれは生れて初めて、充実した陶酔を味わった。まえのときには圧倒され、たじろいだものが、二度めのそのときには激しいよろこびのとなった。おうたの全身はおれを包み、譬えようもない微妙さでなみうち痙攣した。おうたのからだは頭から手足の爪先まで、一分の隙もなく活き活きとうごめき揺れ、吸着しひきつりのけぞった。いまでも、そのときの触感はおれの肌に残っている、と銕太郎は思った。それからあの呼吸と声だ。火のように熱い、とぎれとぎれの呼吸と、そのままでは意味をなさない告知の叫び。あれもおれの初めて経験したものだし、おれを強烈な陶酔にひきいれたことも忘れられない、銕太郎はそう思いながら妻のほうを見た。

「人にはそれぞれ癖があるものです」とゆきをは化粧する手を休めずに云った、「との方でもそうでございましょう」