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あざみ

薊

山本 周五郎

「小説新潮」新潮社、1959(昭和34)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,800 字 · 32 页

青空文庫

小さいけれども固くて、吸いつくようになめらかな乳房や、すんなりと少年のようにのびやかな腰の線は、嬌めかしいというよりも、むしろ匂やかにすがすがしい感じであった。

――それでおれは、岡野弥三郎の言葉をそのまま信じていたんだ。

あれは結婚してまもないときのことだ、と銕太郎は思った。たしか村尾で祝宴のあったときだ、村尾の家で母堂の床上げ祝いをしたときのことだろう、そうだ。岡野は例のとおりすぐに酔って、誰かにからみ始め、ついでおれのほうへ来た。

――御側用人、と岡野は云った。すばらしい花をお手に入れたそうですな。

おれにはなんのことかわからなかった。

――奥方ですよ、と岡野は云った。安島家のゆきをどのといえば、家中の娘たちのあこがれの的でしたからね。

追従するような笑いに、一種の皮肉なものが感じられた。それから約半年、おれは「すばらしい花」という言葉をそのまま信じ、藩主の参覲の供で江戸へいった。

「お願いです、あなた」とゆきをが云った、「どうぞなにも訊かずに、わたくしの望みをかなえて下さいまし」

いや、それはもっとあとのことだ、と銕太郎はそっと首を振った。