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やくぜんやくご
薬前薬後
岡本 綺堂
「東京」1925(大正14)9月号、「時事新報」1926(大正15)年8月19~22日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,091 字 · 12 页
草花と果物
盂蘭盆の迎い火を焚くという七月十三日のゆう方に、わたしは突然に強い差込みに襲われて仆れた。急性の胃痙攣である。医師の応急手当で痙攣の苦痛は比較的に早く救われたが、元来胃腸を害しているというので、それから引きつづいて薬を飲む、粥を啜る。おなじような養生法を半月以上も繰返して、八月の一日からともかくも病床をぬけ出すことになった。病人に好い時季というのもあるまいが、暑中の病人は一層難儀である。わたしはかなりに疲労してしまった。今でも机にむかって、まだ本当に物を書くほどの気力がない。
病臥中、はじめの一週間ほどは努めて安静を守っていたが、日がだんだんに経つに連れて、気分の好い日の朝晩には縁側へ出て小さい庭をながめることもある。わたしが現在住んでいるのは半蔵門に近いバラック建の二階家で、家も小さいが庭は更に小さく、わずかに八坪あまりのところへ一面に草花が栽えている。
若い書生が勤勉に手入れをしてくれるので、わたしの病臥中にも花壇はちっとも狼藉たる姿をみせていない。夏の花、秋の草、みな恙なく生長している。これほどの狭い庭に幾種の草花類が栽えられてあるかと試みに数えてみると、ダリヤ、カンナ、コスモス、百合、撫子、石竹、桔梗、矢車草、風露草、金魚草、月見草、おいらん草、孔雀草、黄蜀葵、女郎花、男郎花