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とうくろうのしま
藤九郎の島
久生 十蘭
「オール讀物」1952(昭和27)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,765 字 · 19 页
西北の強風は三日の間小休もなく吹き、昼さえ陽の目を見せぬ陰府のような陰闇たる海を漂わしたすえ、四日午後になって、やっとのことで勢をおさめた。
十二人は正体もなく寝框にころがっていたが、どうやら命の瀬戸を切りぬけたようすなので、誰も彼も生きかえったような心持になり、粮米を出してまず饑えをふさぐ仕事にとりかかった。船の上に出てみると、どちらをみても潮の色ばかりで、島山の影さえない。吹く風はあたたかく、日射しが強いので、だいぶと南のほうへ流されたことだけはわかった。
「お船頭、気のせいかしらぬが、潮の流れに乗っているように思うが」
甚八という楫取が左太夫のそばに立ってそういった。左太夫は眼をとじて潮の音を聞き、舷のほうへ行って海の色をながめていたが、
「たしかに潮の流れに乗った。それにしても、早瀬のようなこんな潮の流れなど、話にも聞いたことがない。それとも、お前ら聞いたことがあるかい」
そこに居合しただけの水夫は、みな聞いたことがなかったとこたえた。
藍色に黒ずんだ二十間ほどの幅の潮の流れが瀬波のような音をたて、流木や芥が船といっしょに流れている。
「これはまァどうしたものだ。