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あしかり

蘆刈

谷崎 潤一郎

「改造」改造社、1932(昭和7)年11月号、12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 39,413 字 · 78 页

青空文庫

後鳥羽、土御門、順徳の三帝を祭神として、いまはそこに官幣中社が建っているのだが、やしろのたてものや境内の風致などはりっぱな神社仏閣に富むこの地方としてはべつにとりたててしるすほどでもない。ただまえに挙げた『増かがみ』のものがたりをあたまにおいてかまくらの初期ごろにここで当年の大宮人たちが四季おりおりの遊宴をもよおしたあとかとおもうと一木一石にもそぞろにこころがうごかされる。わたしは路傍にこしかけて一ぷくすってからひろくもあらぬ境内をなんということもなく往ったり来たりした。そこはかいどうからほんの僅か引っ込んでいるだけだけれども籬にとりどりの秋草を咲かせた百姓家が点々と散らばっている奥の、閑静な、人の眼につかない、こぢんまりした袋のような地面なのである。でも後鳥羽院の御殿というのはこれだけの狭い面積のなかにあったのではなく、ここからずっとさっき通って来た水無瀬川のきしまでつづいていたのであろう。そして水のほとりの楼のうえからかまたはお庭をそぞろあるきなさりながらか川上の方を御覧になって「やまもとかすむみなせ川」の感興をおもらしになった