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あしかり
蘆刈
谷崎 潤一郎
「改造」改造社、1932(昭和7)年11月号、12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 39,413 字 · 78 页
かいに神社の北の方にそびえている天王山のいただきをのぞんだ。かいどうを歩いているときは気が付かなかったが此処へ来てから四方をながめると、わたしは今南北の山が屏風のように空をかぎっている谷あいの鍋の底のような地点に立っている。なるほど、王朝の或る時代に山崎に関所が設けられていたことも西から京へ攻め入るのにこのあたりが要害の地であったこともこういう山河の形勢を見るとおのずから合点されるのである。ひがしの方の京都を中心とする山城の平野と西の方の大阪を中心とする摂河泉の平野とがここで狭苦しくちぢめられていてそのあいだをひとすじの大河がながれてゆく。されば京と大阪とは淀川でつながっているけれども気候風土はここを境界にしてはっきりと変る。大阪の人の話をきくと京都に雨が降っていても山崎から西は晴れていることがあり冬など汽車が山崎を過ぎると急に温度の下ることが分るという。そういえばところどころに竹藪の多い村落のけしき、農家の家のたてかた、樹木の風情、土の色など、嵯峨あたりの郊外と似通っていてまだここまでは京都の田舎が延びて来ているという感じがする。