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あしかり

蘆刈

谷崎 潤一郎

「改造」改造社、1932(昭和7)年11月号、12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 39,413 字 · 78 页

青空文庫

わたしはやしろの境内を出るとかいどうの裏側を小径づたいにふたたびみなせ川の川のほとりへ引き返して堤の上にあがってみた。川上の方の山のすがた、水のながめは、七百年の月日のあいだに幾分かちがって来たであろうがそれでも院の御うたを拝してひそかに胸にえがいていたものといま眼前にみる風光とはおおよそ似たり寄ったりであった。わたしはだいたいこういう景のところであろうとつねから考えていたのである。それは峨々たる峭壁があったり岩を噛む奔湍があったりするいわゆる奇勝とか絶景とかの称にあたいする山水ではない。なだらかな丘と、おだやかな流れと、それらのものを一層やんわりぼやけさせている夕もやと、つまり、いかにも大和絵にありそうな温雅で平和な眺望なのである。なべて自然の風物というものは見る人のこころごころであるからこんな所は一顧のねうちもないように感ずる者もあるであろう。けれどもわたしは雄大でも奇抜でもないこういう凡山凡水に対する方がかえって甘い空想に誘われていつまでもそこに立ちつくしていたいような気持にさせられる。こういうけしきは眼をおどろかしたり魂を奪ったりしない