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そせい

蘇生

豊島 与志雄

「新小説」1918(大正7)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,974 字 · 31 页

青空文庫

「私もう参りますわ。」

八重子の声だった。敬助は驚いてふり向いた。八重子も喫驚したらしかった。彼女は立ちかけた腰をまた其処に下した。

「覚めていらっしたの?」と彼女は云った。

敬助は何とも答えなかった。そして、彼女の眼が赤く充血していること、頬に血の気がなくて皮膚が荒れていること、髪が乱れていること、凡て不眠から来る様子に彼はその時になって初めて気付いた。

「済みません。」そう敬助はいった。

八重子はちらと眼を瞬いて俯向いた。苦しい時間が過ぎた。「ではもう行ったらいいでしょう。」と云う中西の言葉に、彼女は初めて顔を上げた。

「ではまた参りますから。お大事に……。」そして彼女は低くお辞儀をした。

その時、彼女の束髪の下に隠れ去るその白い顔を眼瞼の中にしまい込むようにして、敬助は眼を閉じた。

八重子が帰ってゆくと、凡てを取り失ったような寂しい時間が寄せて来た。障子に当っていた朝日の光りはいつのまにか陰ってしまっていた。室の中にはしっとりとした空気が澱んでいた。もう中西とも何もいうことはなかった。

葡萄酒を一杯、鶏卵の卵黄を二つ、鶏肉の汁を一椀、粥を少量、それだけ敬助は食べた。