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らん

蘭

山本 周五郎

「家の光」1948(昭和23)年8月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,247 字 · 21 页

青空文庫

かかる無知と暴力に対抗することは愚かであると信じて……藤六はこういう状態の上へ、今や底のしれぬ自信をもって、傲然と腰をすえた。そしてあきらかに、かれは平三郎と生之助とに正面からいどみかかる気勢を示しはじめた。

しぐれの降る日だった。午少し前に平三郎が生之助を詰所にたずねて来た。いま国老に呼ばれたのだがと、平三郎はすわるより早く口ばやに言いだした。江戸在府ちゅうの能登守から使いがあって、将軍家より小笠原流礼法を聞きたいという下命だから、しかるべき者を出府させるよう、自分の考えでは、生之助か平三郎がよかろうと思う、そういう意味の墨附が来た。それで老臣相談のうえ、自分に出府するようにと申しつけられたというのであった。

「ともかく考える時間をもらって来たが……」平三郎は、常になく押しつけるような調子でいった。「……これはおれの役ではないと思う。ぜひ、そこもとに出てもらわなければならない。そうお答えするつもりだから頼む」

「せっかくだがことわる。重役がた合議といえば軽くはない。ほかのこととは違ってお家伝統の大事だ。だれの目にも、そこもとだということは動かないだろう。