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らん

蘭

山本 周五郎

「家の光」1948(昭和23)年8月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,247 字 · 21 页

青空文庫

「脇屋藤六がまたやった」追手門を出ると、すぐに平三郎がそう云った。「増島三之丞と中原又作を馬場へ呼びだして、仲間でとり詰めて、中原は腕を折り、三之丞は頭を割られたそうだ。こまった」

生之助は、だまってまゆをひそめた。法恩寺山から吹きおろす風は、武家町の広い乾いた道にほこりを巻きたて、樹々の枝に散り残った枯葉をひきちぎって行った。

「悪いことには、若い者の間に、だんだん脇屋の勢力が広がっていく。粗暴と慷慨が、わけもなく壮烈にみえる年ごろだ。捨てておくと、とり返しようのないことになる」

「たしかに、あれは将来きっとがんになる」生之助は低い、ささやくような声でこう云った。

「……なんとかしなければならない。心から藩家を思う者は、そう考えているのだろう。けれど、こういうおれ自身でさえ、やはり手をつかねているのだから」

「脇屋はそれを見とおしている。刀の柄に手をかけることが自分の存在の強大さだということを、そして、人が暴戻にたいしてたやすく起つものでないということを。――かれは、そこを根にして伸びあがるんだ。悪はそれ自身では、けっして成長しないものだ」

「だが……」