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とらがり

虎狩

中島 敦

「光と風と夢」1942(昭和17)年7月15日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 24,260 字 · 48 页

青空文庫

暫く観察していた私は今まで気がつかないでいた事を発見した。それは、虎の頬と顎の下が白いということだ。それから又、彼の鼻の頭が真黒で、猫のそれのように如何にも柔かそうで、一寸手を伸ばしていじって見たいように出来ていることも私を喜ばせた。私はそれらの発見に満足して立去ろうとした。が、私が此処に佇んでいた小一時間の間、この獣は私に一瞥さえ与えなかったのだ。私は侮辱を受けたような気がして、最後に、獣の唸るような声を立てて、彼の注意を惹こうと試みた。併し無駄だった。彼は、その細く閉じた眼をあけようとさえしなかった。

いよいよ土曜日になった。四時間目の数学が終るのを待ちかねて、私は急いで家に帰った。そうして昼飯をすますと、いつもより二枚余計にシャツを着込み、頭巾やら耳当やら防寒の用意を充分にととのえてから、かねての計画どおり「親戚の家に泊ってくるかも知れぬ」と言って表へ出た。四時の汽車には少し早過ぎたけれども、家にじっと待っていられなかったのだ。約束の南大門駅の一、二等待合室に行って見ると、だが、もう趙は来ていた。いつもの制服ではなく、スキイ服のような、上から下まで黒ずくめの暖かそうな身軽ななりをしている。