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とらがり

虎狩

中島 敦

「光と風と夢」1942(昭和17)年7月15日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 24,260 字 · 48 页

青空文庫

上るに従って道は次第にひどくなる。しまいには、道がなくなって、尖った木の根や、突出た岩角を越えて上って行くのだ。寒さはひどい。鼻の中が凍って、突張ってくる。頭巾をかぶり耳には毛皮を当てているのだが、やはり耳がちぎれそうに痛む。風が時々樹梢を鳴らす度に一々はっとする。見上げると、疎らな裸木の枝の間から星が鮮かに光っている。こうした山道が凡そ三時間も続いたろうか。小山程の大きな巌の根を一廻りして、もう可成疲れた私達は、其の時、林の中の一寸した空地に出て来た。すると、私達より少し前に其処に着いていた勢子達が、私達の姿を見て、手を挙げて合図をするのだ。みんなはそちらへ駈出した。私もハッとして、おくれずに走って行った。彼等の一人の指す所を見ると、成程、雪の上にはっきりと、直径七八寸もありそうな、猫のそれにそっくりな足跡が印されている。そして其の足跡は少しずつ間隔をおいて、私達の来た方角とは直角に空地を横ぎって、林から林へと続いている。しかも、勢子達の一人の言葉を趙が翻訳してくれた所によると、此の足跡はまだ非常に新しいというのだ。趙も私も極度の昂奮と恐怖のために口も利けなくなって了った。