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とらがり

虎狩

中島 敦

「光と風と夢」1942(昭和17)年7月15日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 24,260 字 · 48 页

青空文庫

明らかに父親からの受売に違いない此の話を、趙はまるで自分が眼の前で見て来たことのように昂奮して語った。その調子は、あたかも彼が、そんな惨劇の今にも目の前で行われるのを切望しているかのようだった。そして実は私もその話を聞きながら、自分に危険のない範囲で、そのような出来事が起ればいい、というような期待をひそかに抱いたのであった。

が、二時間待っても、三時間待っても、一向虎らしいものの気配も見えぬ。もう二時間もすれば夜が明けてくるだろう。趙の父親の話によると、こうやって虎狩に来ても、いきなり新しい足跡を見付けるなんぞというのは余程運がいい方で、大抵は二三日麓の農家に滞在させられるということだから、これはことによると、今晩は出て来ないのではないかな。そうすると、学校や家の都合で逗留できない私は、何にも見ないで帰らなければならないことになる。そうなったら、趙は一体どうするだろう。父親と一緒に虎が出てくるまで此処へ何日でも残るつもりだろうか。自分一人で帰るのは詰まらないな。…………そんな事を考え出すと、宵の中からの緊張も次第に弛んで来る。

趙はその時、持って来た鞄の中からバナナを一房取出して私にも分けてくれた。