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きょこうのはる

虚構の春

太宰 治

「文学界」1936(昭和11)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 54,586 字 · 108 页

青空文庫

武蔵野新聞社、学芸部、長沢伝六。太宰治様。追伸、尚原稿書き直して戴ければ、二十五日までで結構だ。それから写真を一枚、同封して下さい。いろいろ面倒な御願いで恐縮だが、なにとぞよろしく。乱筆乱文多謝。」

「ちかごろ、毎夜の如く、太宰兄についての、薄気味わるい夢ばかり見る。変りは、あるまいな。誓います。誰にも言いません。苦しいことがあるのじゃないか。事を行うまえに、たのむ、僕にちょっと耳打ちして呉れ。一緒に旅に出よう。上海でも、南洋でも、君の好きなところへ行こう。君の好いている土地なら、津軽だけはごめんだけれど、あとは世界中いずこの果にても、やがて僕もその土地を好きに思うようになります。これぼっちも疑いなし。旅費くらいは、私かせぎます。ひとり旅をしたいなら、私はお供いたしませぬ。君、なにも、していないだろうね? 大丈夫だろうね? さあ、私に明朗の御返事下さい。黒田重治。太宰治学兄。」

「貴翰拝誦。病気恢復のおもむきにてなによりのことと思います。土佐から帰って以来、仕事に追われ、見舞にも行けないが、病気がよくなればそれでいいと思っている。今日は十五日締切の小説で大童になっているところ。