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きょこうのはる
虚構の春
「文学界」1936(昭和11)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 54,586 字 · 108 页
それを僕のセンチに帰するのは好くない。ぼくは、恋文を貰った小娘のように顔をあからめていた。四、これが君の手紙への返事だったら破いて呉れ。僕としては依頼文のつもりだった。たった一つ、僕のこんどの小説を宣伝して呉れということ。五、昨日、不愉快な客が来て、太宰治は巧くやったねと云った。僕は不愛想に答えた。『彼は僕たちが出したのです』――今日つくづく考えなおしている。こんなのがデマの根になるのではないか――と。『ええ』といっておけば好いのかもしれない。それともまた『彼は立派な作家です』と言えばいいのか。ぼくはいままでほど自由な気持で君のことを饒舌れなくなったのを哀しむ。君も僕も差支えないとしても、聞く奴が駑馬なら君と僕の名に関る。太宰治は、一寸、偉くなりすぎたからいかんのだ。これじゃ、僕も肩を並べに行かなくては。漕ぎ着こう。六、長沢の小説よんだか。『神秘文学』のやつ。あんな安直な友情のみせびらかしは、僕は御免だ。正直なのかもしれないが、文学ってやつは、もっとひねくれてるんじゃないかしら。長沢に期待すること少くなった。これも哀しいことの一つだ。七、長沢にも会いたいと思いながら、会わずにいる。