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きょこうのはる

虚構の春

太宰 治

「文学界」1936(昭和11)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 54,586 字 · 108 页

青空文庫

十年来の信条であった。肉体化さえ、されて居る。十年後もまた、変ることなし。けれども私は、労働者と農民とが私たちに向けて示す憎悪と反撥とを、いささかも和げてもらいたくないのである。例外を認めてもらいたくないのである。私は彼等の単純なる勇気を二なく愛して居るがゆえに、二なく尊敬して居るがゆえに、私は私の信じている世界観について一言半句も言い得ない。私の腐った唇から、明日の黎明を言い出すことは、ゆるされない。裏切者なら、裏切者らしく振舞うがいい。『職人ふぜい。』と噛んで吐き出し、『水呑百姓。』と嗤いののしり、そうして、刺し殺される日を待って居る。かさねて言う、私は労働者と農民とのちからを信じて居る。(一行あき。)私は派手な衣服を着る。私は甲高い口調で話す。私は独り離れて居る。射撃し易くしてやって居るのである。私の心にもなき驕慢の擬態もまた、射手への便宜を思っての振舞いであろう。(一行あき。)自棄の心からではない。私を葬り去ることは、すなわち、建設への一歩である。この私の誠実をさえ疑う者は、人間でない。(一行あき。)私は、つねに、真実を語った。その結果、人々は、私を非常識と呼んだ。