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きょこうのはる

虚構の春

太宰 治

「文学界」1936(昭和11)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 54,586 字 · 108 页

青空文庫

私、十九歳より二十三歳まで、四年間土曜日ごとに逢っていたが、私はいちども、まじわりをしなかった。けれども、肉親たちは、私を知らない。よそに嫁いで居る姉が、私の一度ならず二度三度の醜態のために、その嫁いで居る家のものたちに顔むけができずに夜々、泣いて私をうらんでいるということや、私の生みの老母が、私あるがために、亡父の跡を嗣いで居る私の長兄に対して、ことごとく面目を失い、針のむしろに坐った思いで居るということや、また、私の長兄は、私あるがために、くにの名誉職を辞したとか、辞そうとしたとか、とにかく、二十数人の肉親すべて、私があたりまえの男に立ちかえって呉れるよう神かけて祈って居るというふうの噂話を、仄聞することがあるのである。けれども、私は、弁解しない。いまこそ血のつながりというものを信じたい。長兄が私の小説を読んで呉れる夢のうれしさよ。佐藤春夫の顔が、私の亡父の顔とあんなに似ていなかったら、私は、あの客間へ二度と行かなかったかも知れない。(一行あき。)肉親との和解の夢から、さめて夜半、しれもの、ふと親孝行をしたく思う。そのような夜半には、私もまた、菊池寛のところへ手紙を出そうか、サンデー毎日の三千円大衆文芸へ応募しようか、何とぞして芥川賞をもらいたいものだ、などと思いを千々にくだいてみるのであるが、夜の