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へび

蛇

森 鴎外

「中央公論 第二十六年第一号」1911(明治44)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,073 字 · 23 页

青空文庫

と書いてある、襖が開いて、古帷子に袴を穿いた、さっきの爺いさんが出て来た。

「あちらへお床を延べました。いつでもお休みになりますなら。」

「そうさね。まだ寐られそうにないよ。お前詞が土地の人と違うじゃないか。」

「へえ。若い時東京に奉公をいたしておりましたから、いくらか違いますのでございましょう」と云って、禿げた頭を掻いている。

次第に家の内がしんとして来るので、例の女の声が前よりもはっきり聞える。己は覚えず耳を傾けると、爺さんがその様子を見て、こう云った。

「どうも誠に相済みません。さぞおやかましゅうございましょう。」

爺いさんのこう云う様子が、ただ一通りの挨拶ではなく、心から恐れ入っているらしいので、己は却て気の毒に思った。しかしそれと同時に、聞けば聞く程怪しい物の言い振りなので、indiscret なようだとは知りながら、どうした女だか聞いて見ようと決心した。

そうとは知らない爺いさんは、右の手尖だけを畳に衝いて、腰を浮かせた。そして己の顔を見て云った。

「もう何も御用は。」

「そう。別になんにもないのだが、お前の方で忙しくないなら、少し聞いて見たいことがある。