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へび
蛇
「中央公論 第二十六年第一号」1911(明治44)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,073 字 · 23 页
そして己が問うままにぽつぽつこんな事を話した。
この穂積という家は、素と県で三軒と云われた豪家の一つである。
亡くなった先代の主人は多額納税者で、貴族院議員になるところであったが、病気を申し立てて早く隠居してしまった。佐久間象山先生を崇拝して、省録を死ぬるまで傍に置いていた。爺いさんは、「なんとかいう、歌を四角な字ばかりで書いてある本」だと云った。
それでいて仏教の信者であった。なんでもこれからの人は西洋の事を知らなくては行けない。しかし耶蘇教になってはならない。耶蘇教の本を読んで見たが、皆浅はかなもので、仏教の足元にも寄り附けないと云っていた。それで自分なぞにも、不断仏教の難有い事を話して聞せた。それは別にむずかしい事ではない。ただ四恩というものを忘れずにいれば、それで好いと云う事であったと、爺いさんは云った。なるほどさっきも、国家の義務だとでもいうようなところを、「報恩」だと云ったっけと、己は思い合せた。
先代の妻は実に優しい女で、夫の言うことに何一つ負いた事がない。そして自分を始め、下々のものをいたわって使ってくれた。あすで二七日になるというのは、この女の事である。