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みかん

蜜柑

佐左木 俊郎

「随筆」1927(昭和2)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,618 字 · 14 页

青空文庫

「眩しいんだ。眩しいんだ。」と弥平爺は、自分の顔でお婆さんの顔へ日蔭をつくった。

「うむ。珍しい人が来なしたで……」

お婆さんは、遠い遠い昔の記憶を呼び起こすようにして、頬の上に微かな笑いの線をうごめかした。

「それさな。こっちの家の姉様が、こんなに大っきくなって、嫁御に行ってるぢのだがら。」

「仙台の方さ行って、大変儲けだぢ話聞いだっけ……」

「なあにな。俺もな婆様、ひでえ長患いしてしまって、儲げだ銭どこでなぐ使ってな。」

「ほうお、爺様も患ったのがね。俺もこれ、この大っき孫、嫁にやってがら、こうして床に就いたきりで……」とお婆さんは眼を閉じた。

「それに爺様も亡くなったぢね? こっちの爺様は面白い人でなあ。爺様に、頭の髪さ赤い布片でも縛って、少しの間、廉ぐ売って歩いで見ろ――って言われたごとあったが、俺なあ婆様、そうして見だのしゃ。ほうしたら、売れで売れで、凍り豆腐は、あの爺様のでねえげ駄目だぢ評判で、随分儲げだのだげっとも……長患いして、残した銭も、しっかり使ってしまって、またこうしてこれ……」

弥平爺は、声を低くして哀れっぽい調子に語尾を引いた。

「ほんでも、まだ丈夫になったようですてや。