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みかん
蜜柑
佐左木 俊郎
「随筆」1927(昭和2)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,618 字 · 14 页
「柿の葉も、皆落ちでしまったなは。」
お美代も、お婆さんと一緒に戸外の景色を眺めた。――実をもぎ取られた柿の樹は、その葉も大方振り落として、黒い枝が奇怪なくねりを大空に拡げていた。柿の樹の下に並んだ稲鳰の上に、落ち散った柿の葉が、きらきらと月光を照り返している。桐の葉や桑の葉は、微風さえ無い寂寞の中に、はらはらと枝をはなれている。遠くの木立ちは、すべて仄黒く、煙りだっていた。そして、丘裾の部落部落を、深い靄が立ち罩めていた。
「婆さん。風邪引ぐど大変だから。」
お美代は、いつまでも戸外の風景に眼を据えているお婆さんを促した。
「うむ。――今年は、稲鳰、六つあげだようだな。小作米出した残りで、来春までは食うにいがんべな。」
「鳰一つがら、五俵ずつ穫れでも……婆さん、そんな心配までしねえだって。さあ、風邪引ぐがら。」
「うむ。小便しさ起ぎだのだげっとも、動がれなくなったはあ。――俺、米の無くならねえうぢに死にでぇんだ……」
「そんなごと言って、まだ死んでられめちゃ、婆さん。」
お美代は、蹲んでいるお婆さんを、後ろから、室の中に抱き入れた。
床の中は冷たくなっていた。