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みかん
蜜柑
山本 周五郎
「キング」大日本雄辯會講談社 、1941(昭和16)年8月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,307 字 · 25 页
源四郎はきゅうにむせびあげながら、
「わたくし、お役御免を仰せつけられとうございます」
そう云って平伏した。
平伏したまま、くくと喉を鳴らして嗚咽する源四郎のようすを、しばらくのあいだ頼宣はだまってみまもっていたが、やがて、つと座を立ちながら云った。
「よい、そのねがい聞きとどけた、今日より奥庭詰めを申しつけるぞ」
そして奥へ去ってしまった。
大高源四郎はその日から太刀脇の役を免ぜられ、奥庭の菜園支配を命ぜられた。そこには頼宣直轄の蜜柑畑がある。彼はその宰領をすることになったのだ。蜜柑畑といっても世間ふつうの蜜柑作りではない。紀州のいわゆる有田蜜柑は、もと九州肥後ノ国八代から移植したもので、土地が合ったものか色も香も味わいもすぐれて上品なものができた。それが天正二年のことで、いらい諸方に植えついで多くの産出をみるようになり、寛永十一年にいたってはじめて江戸へ売りだしたところ、伊豆、駿河、三河、上総などのものより格段に美味だったため、ひじょうな高値で売れたうえ多くの予約までむすばれたのである。
これを聞いた頼宣は、売れるからよいで品種が落ちるようになってはならぬと思い、城中の奥庭に畑を設け、手許の費用でさらによき樹を育てあげるよう、研究をはじめさせていたのだった。