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みかん

蜜柑

山本 周五郎

「キング」大日本雄辯會講談社 、1941(昭和16)年8月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,307 字 · 25 页

青空文庫

源四郎ははじめまったく無感動で勤めていた。しかし毎日見ているうちに、働いている作人たちの仕事にだんだんと心をひかれるとき、ふと鋏をとって畑へはいっていったのがきっかけになって、いつかしら、じぶんでも気づかぬうちに、作人たちにまじって土まみれになるのもいとわず働きだしていた。

こうして七十余日経った。九月(新暦十月)も末にちかいある日、なんのまえ触れもなく、ふいに頼宣が蜜柑畑へあらわれた。

蜜柑畑のなかに、亭づくりの腰掛がある、頼宣はそこへはいって掛け、人を遠ざけて源四郎をちかくへまねいた。

「どうだ源四郎、蜜柑作りは面白いか」

「……はっ」

「そのようすではすこしは慣れたとみえるな」

土まみれになった源四郎の姿を、頼宣は微笑の眼で見ながら云った。

源四郎はただおのれの膝をみつめたまま低頭した。

「きょうはそのほうに命ずることがある」

「…………」

「支度をあらためて江戸へ使者にたて」

「お使者」

「そうだ、大切な使いだ」頼宣はつと声を低くした。

「余が高禄を惜しまず名あるさむらい、諸国の浪人を召抱えていることが公儀のお疑いをまねいたようだ、そのほうその申しひらきをしてまいれ」