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みかん
蜜柑
山本 周五郎
「キング」大日本雄辯會講談社 、1941(昭和16)年8月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,307 字 · 25 页
そう思うと、日頃の反抗心などはなくなって、溢れ出ようとする泪を抑えるだけが源四郎には精いっぱいであった。
「御用のひまを欠かせて相すまぬ」
直次は韻の枯れてしまった声で、けれども力のある調子で云った。
「このたびは、わしもいよいよおいとまだと思う。……ことしの蜜柑はたべるつもりでいたが、もういかぬ」
「それで……」
低く息をつぎながら直次はつづけた。
「生前そのもとに、ひとこと申し遺したいことがあって来てもらった」
「……はい」
「源四郎」
にわかに名を呼ばれて、はっと見あげる源四郎の眼を、直次は屹とねめつけながら、
「そのほうは、まだ、まことの御奉公というものを知らぬぞ、そのような未熟なことではいちにんまえのお役にたたんぞ!」
思いもかけぬはげしい叱だった。
「紀伊五十五万石はまだ安泰ではない、お城の石垣の根はまだかたまってはおらぬ、これまでのような眼先ばしりな、我儘な御奉公ぶりでは、いざという場合のお役には相たたんぞ」
「恐れながら、うかがいます」
一瞬のうちに蒼白になった源四郎は、膝をにじらせながら云いだした。
「まことの御奉公を知らず、いちにんまえのお役にたたぬというお叱りは、これまでしばしばうかがいました。