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ちょうのえ

蝶の絵

久生 十蘭

「週刊朝日別冊 記録文学特集号」1949(昭和24)年9月10日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 24,644 字 · 49 页

青空文庫

津村は意外だったらしく、

「おや、こいつは山川さんを知っているのだとみえますね」

と、うれしそうにいった。山川は苦笑しながら、

「津村君がスマトラで飼っていたのによく似ていると思ったら、やはりそうだった」

と弁解するように呟いた。

猩々の子供は山川の注意をひくつもりか、叫んだり檻をゆすぶったりして騒いでいたが、そのうちに繩っきれを首に巻きつけ、牡丹の花のような赤い口を喇叭式にあけて、クゥと啼いてみせた。

「どうしたというのでしょう。いつもは、こんなことはしないのですが」

「スマトラにいるときは、津村君の真似なんかして、面白いやつでした。あばれることもあばれますから、お世話がたいへんでしょう」

「この春まで、末の子供がかかりっきりで世話をしていましたが、それが死んでからは、どうにも手がまわりかねましてね。それに、こういうものを飼う手心もわきまえませんもので、正直なところ、荷厄介で弱っておりますよ」

「上野へおやりになったら?」

「上野へやろうと思いましたら、設備がないから、もうすこしそちらに置いてもらいたいと、こういうことでして……」

いかにも困りはてたというふうだった。