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ちょうのえ
蝶の絵
久生 十蘭
「週刊朝日別冊 記録文学特集号」1949(昭和24)年9月10日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 24,644 字 · 49 页
「こいつは、一流みたいな飲みかたをする。どこで、おぼえたんだ。まさか、ヨーロッパへ戦争に行ったわけでもあるまい。ふしぎなやつだね」
と岩城がいった。笠原は山川の顔を、と見こう見していたが、
「山川は、六年も戦争に行っていたというけど、ちっとも変っていないね。痛めつけられたようなところは、どこにもないじゃないか」
と呆れたようにいった。
水に晒したような絖のたつ白い皮膚は、どこといって日焼けもせず、華奢な手は、依然として敏感そうに、すらりとしたかたちを保っている。眼の艶もそのまま、声もそのまま。戦争は別にしても、歳月の腐蝕を受けずに、どうしてむかしのままの風姿を持続することができたのか、まず、それがふしぎだった。
「おれの友達なんだが、現地へ着くが早いか、敵前逃亡をして、終戦後、軍法会議と戦時特別刑法が廃止になるのを見さだめてから、悠々とあらわれてきたのがいる……兵科はなんだったんだ、そんな生っ白い顔でいられるというのは」
「高射砲隊……ひどい戦闘もしたが、ともかく運がよかった。終戦は、ニューギニアのカイマナだったが、あまり奥へ逃げこんじゃって、二年も終戦を知らなかった。