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かにこうせん

蟹工船

小林 多喜二

「戦旗」1929(昭和4)年5月、6月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 61,890 字 · 125 页

青空文庫

其処へ、監督が身体をワクワクふるわせている雑夫を後からグイ、グイ突きながら、押して来た。寒い雨に濡れながら仕事をさせられたために、その雑夫は風邪をひき、それから肋膜を悪くしていた。寒くないときでも、始終身体をふるわしていた。子供らしくない皺を眉の間に刻んで、血の気のない薄い唇を妙にゆがめて、疳のピリピリしているような眼差しをしていた。彼が寒さに堪えられなくなって、ボイラーの室にウロウロしていたところを、見付けられたのだった。

出漁のために、川崎船をウインチから降していた漁夫達は、その二人を何も云えず、見送っていた。四十位の漁夫は、見ていられないという風に、顔をそむけると、イヤイヤをするように頭をゆるく二、三度振った。

「風邪をひいてもらったり、不貞寝をされてもらったりするために、高い金払って連れて来たんじゃないんだぜ。――馬鹿野郎、余計なものを見なくたっていい!」

監督が甲板を棍棒で叩いた。

「監獄だって、これより悪かったら、お目にかからないで!」

「こんなこと内地さ帰って、なんぼ話したって本当にしねんだ」

「んさ。――こったら事って第一あるか」

スティムでウインチがガラガラ廻わり出した。