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かにこうせん

蟹工船

小林 多喜二

「戦旗」1929(昭和4)年5月、6月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 61,890 字 · 125 页

青空文庫

殺気だっていた。

監督は実は今朝早く、本船から十哩ほど離れたところに碇っていた××丸から「突風」の警戒報を受取っていた。それには若し川崎船が出ていたら、至急呼戻すようにさえ附け加えていた。その時、「こんな事に一々ビク、ビクしていたら、このカムサツカまでワザワザ来て仕事なんか出来るかい」――そう浅川の云ったことが、無線係から洩れた。

それを聞いた最初の漁夫は、無線係が浅川ででもあるように、怒鳴りつけた。「人間の命を何んだって思ってやがるんだ!」

「人間の命?」

「そうよ」

「ところが、浅川はお前達をどだい人間だなんて思っていないよ」

何か云おうとした漁夫は吃ってしまった。彼は真赤になった。そして皆のところへかけ込んできたのだった。

皆は暗い顔に、然し争われず底からジリ、ジリ来る興奮をうかべて、立ちつくしていた。父親が川崎船で出ている雑夫が、漁夫達の集っている輪の外をオドオドしていた。ステイが絶え間なしに鳴っていた。頭の上で鳴るそれを聞いていると、漁夫の心はギリ、ギリと切り苛いなまれた。

夕方近く、ブリッジから大きな叫声が起った。下にいた者達はタラップの段を二つ置き位にかけ上った。