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かにこうせん
蟹工船
小林 多喜二
「戦旗」1929(昭和4)年5月、6月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 61,890 字 · 125 页
四
船頭は、皆が変にムキにその話に引き入れられているのを見て、一生懸命しゃべっている若い漁夫の肩を突ッついた。
四
靄が下りていた。何時も厳しく機械的に組合わさっている通風パイプ、煙筒、ウインチの腕、吊り下がっている川崎船、デッキの手すり、などが、薄ぼんやり輪廓をぼかして、今までにない親しみをもって見えていた。柔かい、生ぬるい空気が、頬を撫でて流れる。――こんな夜はめずらしかった。
トモのハッチに近く、蟹の脳味噌の匂いがムッとくる。網が山のように積さっている間に、高さの跛な二つの影が佇んでいた。
過労から心臓を悪くして、身体が青黄く、ムクンでいる漁夫が、ドキッ、ドキッとくる心臓の音でどうしても寝れず、甲板に上ってきた。手すりにもたれて、フ糊でも溶かしたようにトロッとしている海を、ぼんやり見ていた。この身体では監督に殺される。然し、それにしては、この遠いカムサツカで、しかも陸も踏めずに死ぬのは淋し過ぎる。――すぐ考え込まさった。その時、網と網の間に、誰かいるのに漁夫が気付いた。
蟹の甲殻の片を時々ふむらしく、その音がした。
ひそめた声が聞こえてきた。
漁夫の眼が慣れてくると、それが分ってきた。