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はえおとこ
蠅男
海野 十三
「講談雑誌」1937(昭和12)年1月号~10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 118,129 字 · 237 页
しかし事実、扉一つ距てた向うに彼の予期しない異変が待ちうけていたのである。
帆村は、鍵を穴から抜いて、片手にぶら下げた。そして把手をグルッと廻して、扉を内側に押した。部屋のなかは、真暗であった。
扉を中に入ったすぐの壁に、室内灯のスイッチがあった。
帆村は、手さぐりでそのスイッチの押し釦を探した。押し釦はすぐ手にふれた。彼は無造作に、その押し釦を押したのであった。
パッと、室内には明るい電灯が点いた。その瞬間である。彼は、
「呀ッ!」
といって、手に持っていた鍵を床の上にとり落とした。それも道理であった。空であるべきはずのベッドの上に、誰か夜着をすっぽり被って長々と寝ている者があったのである。
「もしや部屋を間違えたのでは……」
と、咄嗟に疑いはしたが、断じて部屋は間違っていない。自分の部屋の鍵で開いた部屋だったし、しかも壁には、見覚えのある帆村のオーバーが懸っているし、卓子の上にはトランクの中から出したまま忘れていった林檎までが、今朝出てゆくときと寸分たがわずそのとおりに並んでいるのだった。自分の部屋であることに間違いはない。
さあ、すると、ベッドの上に寝ているのは一体何者だろう。