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はえおとこ
蠅男
海野 十三
「講談雑誌」1937(昭和12)年1月号~10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 118,129 字 · 237 页
これは一体どうしたことであろう。
ベッドの上の糸子は死んでいるのではなかった。目覚めこそしないが、落ついた寝息をたててスヤスヤと睡っているのであった。その蝋のように艶のある顔は、いくぶん青褪めてはいたけれど、形のいい弾力のある唇は、まるで薔薇の花片を置いたように紅かった。
帆村の魂は恐怖の谷からたちまち恍惚の野に浮き上り、夢を見る人のようにベッドの上の麗人の面にいつまでも吸いつけられていた。
「なぜだろう?」
帆村は、解けない謎のために、やっと正気に戻った。夢ではない、糸子が彼の部屋のベッドの上に寝ているのは厳然たる事実だ。厳然たる事実なれば、この大きい意外をもたらした事情はどういうのだろう。それを知らなければならない。
彼は帳場へ電話をかけようかと思って、それに手を懸けた。けれどそのとき不図気がついて懐中を探った。
出て来たのは、一通の西洋封筒だった。さっき帳場で渡されてきた宛名も差出人の名前もない変な手紙だ。
彼はそっと封筒をナイフの刃で剥がしてみた。その中からは新聞紙が出て来た。新聞紙を八等分したくらいの小さい形のものだった。
新聞紙が出て来たと見るより早く、帆村は蠅男の脅迫状を連想した。